PROJECT

「社会的インパクト講座 入門編」を開催しました。

今注目を集めている「社会的インパクト」
宮崎ではまだなじみの薄い概念ですが、「入門編」ということで、アンドパブリック株式会社の共同代表である桑原憂貴さんと長友まさ美さんがやさしく丁寧にプレゼンしてくれました。

桑原さんは、元々大学時代に貧困層への小額融資(マイクロファイナンス)の研究をされ、その後、社会課題をビジネスで解決したいという思いを持ちながら様々な経験を積まれた方です。特に印象的だったのは、東日本大震災後、岩手県陸前高田でのまちづくり支援に携わった経験です。津波で更地になった場所で、住民の方々と「こんな街にしたい」と議論を重ねるも、現実は厳しく、街づくりの議論に参加する住民の方が減っていくのを目の当たりにしたそうです。
そんな中、住民の中から「何か一つでも自分たちで街づくりを進めたと言えるものが欲しい」という声があがり、流されてしまった集会所を自分たちの手で作る「セルフビルド」のプロジェクトが始まりました。このプロジェクトでは、宮崎の高千穂で作られていたレゴブロックのような木のブロックが使われ、多くの人が協力して集会所が完成したそうです。
この経験が、桑原さんの今の活動の原点の一つになっていると語られました。街づくりの議論では意見がぶつかることも多かったのに、一緒に空間を作ることで関係性が良くなったり、集会所ができたことでお祭りや料理教室が再開されるといった変化が生まれたそうです。当時は「空間を作ることに夢中だった」そうですが、10年経って振り返った時に、「これが社会的なインパクトだったんだ」と学んだといいます。

社会的インパクトとは何か?セミナーでは、「社会的インパクト」の定義について詳しく解説がありました。一言でいうと「社会や環境の『変化』『成果』」のことです。
重要なポイントとして、以下の4点が挙げられました。

長期だけでなく短期的な成果も含む

大きな規模だけでなく、個人の気持ちの変化など小さなものも含む(例:子供が前向きになれた、おばあさんが笑顔になった)

数値化できるもの(定量)だけでなく、エピソード(定性)も含む

ポジティブな変化だけでなく、ネガティブなインパクトも含む(例:DIYでゴミをたくさん出してしまった)

なぜ今、社会的インパクトが重要なのか?

かつては経済活動で利益を上げ、その余剰で社会貢献(CSR)を行うという考え方が一般的でした。しかし、今は経済活動は社会価値の上に成り立ち、さらに社会価値は環境価値の上に成り立っているという「カメノコモデル」のような関係性が重視されています。自然の回復力を超える環境破壊や、コロナ禍のように社会的な問題が起きると経済活動ができなくなる経験を経て、「社会や環境の価値を大切にし、それが回復するような事業や損なわれない事業をやろう」という価値観が広まってきたからです。また、社会や環境に良い価値を生み出す企業に積極的にお金が流れる動きも高まっています。
国内でもこの動きは広がっており、内閣府が研究を始め、2019年には休眠預金等活用法が施行され、社会課題解決活動への助成金や出資に活用されるようになりました。これに伴い、活動の「インパクト評価」を行うことが求められています。昨年には金融庁と経済産業省が中心となり「インパクトコンソーシアム」が立ち上がり、社会的インパクトを測るための「データ・指標分科会」などで議論が進められています。

社会的インパクトを「設計」し「測定」する社会的インパクトは、単に「評価」するだけでなく、「マネジメント」することが重要だといいます。良い変化があれば、それを大きくするために活動を改善し、サイクルを回していく必要があるからです。

このマネジメントは、まず「設計」から始まります。自分たちが社会や環境に「どのような変化を起こしたいのか」という事業の意図を、自分たちで決めるのです。そして、その望む状態(幸せな光景)に至るためのルート、つまり「階段」を描いていきます。この設計図を描くのに役立つのが「ロジックモデル」です。

投入資源、活動、結果(アウトプット)、そして成果(アウトカム:短期、中期、長期の社会・環境変化)という要素を整理することで、事業の意図を可視化し、組織内外で共有しやすくなります。

成果とは、例えば米作りで「お米ができた」という結果ではなく、「お米が食卓に届き、家族が幸せを感じる」といったコントロールできない社会・環境の変化を指します。
設計ができたら、インパクトが生まれているかを測るための「インパクト指標」を設定し、「測定」を行います。指標には、CO2削減量や自己肯定感など、誰が聞いても納得感があり外部評価にも使える「汎用指標」と、組織独自の価値観に基づく「独自指標」があります。誰に伝えたいか(活用目的)によって、選ぶべき指標は異なります。また、数値(定量)だけでなくエピソード(定性)も重要な指標となります。ただし、指標の置き方によっては、活動が歪んでしまうリスクもあるため、何のために、何を大切にするのかをしっかり考える必要があります。

【ワークショップ】

セミナーの後半では、実際に社会的インパクトの設計図を描くワークショップが行われました。テーマは「宮崎県の経済活性化」。今回は、MOCのビジョンでもある「自ら挑戦する人が活躍し、活力が溢れる経済が実現している」といった長期的な「望む幸せな光景」が提示され、そこから逆算して、この状態を実現するために「誰に、どのような変化が必要か」をチームで考え、付箋に書き出しました。
個人でアイデアを出し合った後、チームで共有し、似た意見をまとめ、短期・中期・長期の成果として並べ替える作業を行いました。

ワークショップを通して、この作業が非常に難しいものであることが分かりました。単に「経済活性化」と言っても、人によって捉え方や目指す変化は異なり、様々な意見(例えば、お金、マインド、福祉、防災、教育、国際化など)が出ました。長期の成果に至るまでの「階段」が見えにくかったり、言葉の意味を丁寧に共有する必要があることなどが浮き彫りになりました。ファシリテーターの方からは、言葉の定義を丁寧に共有し、具体的な「光景」をイメージしながら作業を進めることの重要性が示されました。
まとめ今回のセミナーを通して、「社会的インパクト」という概念が、単なる評価の枠を超え、自分たちの事業や活動が社会や環境にどのような意味を持つのかを問い直し、それを可視化・共有し、より良い未来を創るための羅針盤となりうる可能性を感じました。事業改善や働く人のやりがい、さらには資金調達や連携にもつながる可能性があるとのことです。
まだまだ発展途上の分野ではありますが、今回の学びを活かして、私自身の活動においても「誰に、どのような幸せな光景を届けたいのか」を意識し、その実現に向けて「社会的インパクト」という視点を取り入れていきたいと思いました。

イベント名 社会的インパクト講座 入門編
開催日程 2025/05/23(金)開催
開催時間 18:00-21:00
開催場所 MOC
活動レポート一覧