MOCグランドオープンイベント_第1部 スタートアップセッション/パネルディスカッション①「公民スタートアップ連携でイノベーションを起こす困難と価値」
スタートアップセクションでは「公民連携でイノベーションを起こす困難と価値」をテーマにしたパネルディスカッションを行いました。登壇者は、産官学・公民連携を実践してきた上原郁磨さん(SBテクノロジー)、友井貴士さん(Microsoft AI Co-Innovation Lab KOBE)というゲスト2人と、MOC理事長の米良充朝さん(共立電機製作所)。MOC理事の齋藤潤一さん(AGRIST)が司会進行を担当しました。
それぞれの視点から語られる「公民連携」のリアルとは?
公民連携に取り組む先駆者たち
齋藤潤一さん(以下、齋藤):
まず、自己紹介をお願いします。
上原郁磨さん(以下、上原):
ソフトバンクで営業の責任者として、テクノロジー部門における数々の新規事業を創ってきました。現在は会社経営をしながら、地域の課題解決に取り組む事業もいくつか担当しています。
友井貴士さん(以下、友井):
マイクロソフトのAI Co-Innovation Lab(以下、AIラボ)を運営しています。アジアで唯一のAIラボが2年前神戸に誕生し、共創型でお客様の開発を弊社エンジニアが支援しています。MOCと同様、産官学で共同運営しているので、情報交換ができたらと思っています。
齋藤:
実は、弊社AGRISTの農業AIはこのマイクロソフトのラボと共同開発したものです。今後、MOCとマイクロソフトの連携も構想中です。
米良充朝さん(以下、米良):
私たちは宮崎で建設資材卸売から始まり、配電盤製造、LED、そして昨年(2024年)は蓄電池の基盤開発会社も仲間となりました。社外活動としては日本商工会議所青年部の会長なども経験しました。
公民連携の難しさと着地させるコツとは?
齋藤:
公民連携やスタートアップ連携でイノベーションを起こす難しさ、またそこにある価値とは?みなさんの実体験をお聞かせください。
上原:
自治体が相手だと、入札制度など構造的な制約があります。私たちは、自治体と事業を進める先駆者と組み、そこに自社のテクノロジーを加えて共同企業体として取り組む方法をとりました。1社で取り組むのは非常に難しいですね。
友井:
関係各所に産官学連携の経験がなかったこともあり、AIラボも最初は関係者同士の対話が難しかったです。そこでマイクロソフトがハブになり、産官学のバランスを取りながら信頼関係を築きました。軌道に乗せるまでが一番大変でしたね。
齋藤:
間に立つ役割はかなりエネルギーが要りそうです。米良さんはどうですか?
米良:
たしかに、軌道に乗るまでが大変ですし、これからという時に担当者が異動してしまうこともあります。「どうなったかな?」と連絡したらもういなかった、ということもよくある話ですし。
齋藤:
それでも皆さんは「着地」させていく。何かコツがあるのでしょうか?
友井:
自治体としてはやはり地元で活かせる成果がほしいと思います。でも、本当にイノベーティブなものなら他地域の企業の開発であっても賛同してくれますし、神戸の企業各社も協力してくれます。重要なのは、各者が満足するアウトプット。それを創出するために、ハブとなる我々が尽力する必要があると感じています。
執着・粘着、情熱がイノベーションの原動力に
齋藤:
そもそも、なぜマイクロソフトは公民連携に取り組んでいるのですか?
友井:
神戸市はITがウィークポイントだったのですが、次の市場はAIだといち早く取り組み、マイクロソフトと神戸大学に声をかけました。大学は人材育成のために今年(2025年)4月からAIをカリキュラムに取り入れた学部を新設し、そのためにさまざまな企業が資金提供をしてくれているという背景があります。
齋藤:
おもしろいですね。公民スタートアップ連携の素晴らしい事例です。
上原さんは、公民連携事業を成功させるポイントは何だと思いますか?
上原:
公民連携の最初の交わりのフェーズは収益が上がりません。ですが営業という職業上、常に社内で数字が求められます。そこで私は自分の行動を“可視化”するために、37歳で大学院に入りデザイン思考を学びました。あらゆる手法を取り入れて、数字が出るまでの窮地をしのぐ粘り強さ。そんなことも必要だったかなと思います。
齋藤:
「何がなんでもやり抜く」という「執着」や「粘着」、これってすごく大切なんですよね。
米良:
まさにそうです。公民連携という言葉はふわっとしがちですが、相手先の異動があっても途切れさせない「粘着性」が、事業を前に進める鍵だと思います。
齋藤:
今日ここにマイクロソフトやソフトバンクといった大企業のお二方が来てくださったのも、私たちの“執着”の結果です。情熱を持って何度も声をかけました。こういう粘り強さ、大切にしたいですね。
期待を込めたMOCへのメッセージ
齋藤:
最後に、MOCへのメッセージをお願いします。
友井:
私たちも神戸市とスタートアップ支援・育成に取り組んでいます。今後は事例を共有し、情報交換しながらMOCとも連携していきたいと思います。
上原:
失敗は成功の過程。小さくても早く試せる場として、MOCのような場所はとても重要です。今日もたくさんの刺激をいただいたので、引き続き皆さんと盛り上げていきたいです。
米良:
マイクロソフトのAIラボのような連携型スタイルは、MOCにとっても目指すべき姿の一つ。失敗を恐れずチャレンジする私たちでありたいと思います。ありがとうございました!