MOCグランドオープンイベント_第3部 パネルディスカッション「ここからはじまる宮崎まちづくりビジョン」
いよいよラストとなる第3部は「ここからはじまる宮崎まちづくりビジョン」をテーマにパネルディスカッションを開催しました。MOC参与の立石建さん(宮崎市 総合政策部・観光商工部 参事)をモデレーターに、小池洋輝さん((株)JR宮崎シティ)、中川敬文さん(株式会社イツノマ 代表取締役CEO)、宮﨑智之さん(横浜市立大学 研究・産学連携推進センター 教授/学長補佐)、髙田理世さん(一般社団法人シェアリングエコノミー協会/ONE KYUSHU サミット実行委員長)の4名がパネリストとして登壇しました。
多様な視点からみた「まちづくり」とは?
立石建さん(以下、立石):
様々な立場でまちづくりに関わるみなさん。これからまちづくりにおいて、ご自身がやりたいことは何でしょうか?
小池洋輝さん(以下、小池):
地域に愛され、必要とされるものをつくることが、私たちの事業の成果につながると考えています。JRとして“まちの玄関口”である駅を手がける以上、地元の方々に喜ばれない自己満足の開発では続きません。
地域の人が笑顔になれる場所を目指すこと。それがサステナブルな事業の本質です。
単に施設をつくるのではなく、その“価値”にどう責任を持てるか。50年先、100年先の答えが今は見えなくても、志を持って取り組むことが何より重要だと、あらためて感じています。
中川敬文さん(以下、中川):
過疎化と高齢化が進む宮崎県都農町は、宮崎市の20年後を先取りする“日本の未来の先進地”。そこでロールモデルをつくりたくて2020年に移住・起業しました。移住直後に町の方々へ「2050年ゼロカーボンを目指すなら、当事者になれる子どもたちに任せましょう」と提案し、今では小学生が議会で提言するまでになり4年目に入ります。
※都農町小学6年生が町長にゼロカーボン施策を提言した「子ども議会」
人口が減れば戦力も減る。だからこそ、子どもは“まちづくりの戦力”です。AIやゼロカーボンなど誰にとっても未知のテーマでは、大人も子どももフラットに関われます。その実践はまさに探究学習。都農町の取り組みを、いつか宮崎県全体にも広げていきたいと考えています。
宮﨑智之さん(以下、宮﨑):
我々は横浜市を拠点に、不登校や若者のメンタル不調について研究しています。人間の基本的な心理欲求は「有用感」「つながり」「自律性」の3つ。SEM(全校拡充モデル)でも言われているように、子どもは自分で考えたことなら、大人が押し付けなくても自然と動き出します。だからこそ、「自分は何がしたいのか」を考える力を育てること、教育の足腰をしっかりと立て直すことが今とても大切だと感じています。
その先にあるのが“まちづくり”です。子どもや若者の声を政策に反映し、実現し、それを公表することで、「自分たちでまちは変えられるんだ」と気づける。横浜市は大きすぎて難しいのですが、宮崎市の人口規模だとそれが実践しやすいのではないでしょうか。
立石:
都農町での子どもゼロカーボン提言にも通じるところですね。髙田さん、これまでの話を聞いていかがですか?
髙田理世さん(以下、髙田):
「100年後」という話が出ましたが、私が日頃から思っているのは、「1人ひとりが生き生きと楽しく活動していたら、それが自然と九州や社会のためになっていく」ような状態をつくりたいということ。「子どもも戦力」という考え方にも強く共感します。次の世代と共に考え、行動していくことは、もはや必須だと感じました。
これまでの教育は、子どもを「お客さん」にしてしまっていた。子どもに「当事者」として関わってもらえる設計を、みんなで考えていきたいですね。
立石:
ぜひみなさんの「やりたいこと」を、この宮崎市で実現してほしいと思っています。
MOCは大人だけの場所にあらず
立石:
6年前、私は横浜市役所でMOCと同じようなスタートアップ拠点を立ち上げました。しかし時間が経つにつれてメンバーが固定されていき、本来やるべきことができていないと感じるようになりました。
みなさんはこのMOCに必要な機能や役割は何だと思いますか?
小池:
先日、全国に2000店舗以上を展開する大手飲食チェーンのトップの方々とお話しする機会がありました。不登校の話題になり、「子どもの目線に立ち、社会課題に対して自社がもっとできることがあるのでは」といった声が上がったのです。これほどの企業のトップが本気で考え始めていることに感動し、強く共感しました。
MOCには、スタートアップの“おもしろい大人たち”が集まってきます。そんな大人たちから、子どもたちが学校では学べないことを感じ取れる場になったら——それもまた、MOCの大きな可能性ではないでしょうか。
立石:
「子ども」というキーワードは宮崎市との議論にも上がっています。難しいのがマネタイズや、誰がやるのか?という運営の部分。中川さん、何かヒントはないでしょうか?
中川:
赤字覚悟でやり続けることじゃないでしょうか。
うちのオフィスは、コワーキングスペースであり、中学生の“まちづくり部”の部室でもあります。東京の高校生と地元の中学生が「人が来たくなる場所」を考えた結果、出てきたのは「駄菓子と漫画」。すぐに駄菓子屋を始め、漫画や卓球台も置きました。
駄菓子なら誰でも買える。小難しい匂いがしたら場は広がりません。学校に行かなくても部室には来る子がいて、その子が今、駄菓子屋を一番がんばっています。
月商6万円。でも10倍にできるかもしれない。最初は赤字でも、誰かが覚悟を持って支えないと、動き出さないんです。
宮﨑:
いま、大手企業の間で「中学・高校の探究学習に関わりたい」という動きが広がっています。たとえば40代向けのサービスを考えるとき、むしろ“いずれ使う側”である若い世代のニーズを捉え、一緒にデザインする価値に企業は本気で投資し始めています。
大事なのは、毎日ちょっとずつでも違うことをやってみること。「なんかおもしろそう」と人が集まり、企業と若者が自然に交わって対話し、3カ月後に何かが形になる——そんな場ができたら、MOCならではのユニークな価値になると思います。
立石:
子どもたちのいろんなニーズを引き出していくことが重要ですね。
宮崎で、MOCで。それぞれに「やりたいこと」宣言!
立石:
最後に、ご自身が関わりつつMOCでやりたいことを宣言していただけますでしょうか。
小池:
九州で見ると福岡は急成長を遂げていますが、福岡だけでなく、九州全体をどのような形でおもしろく次のステップへ進めるか、宮崎のまちをどう盛り上げていくかも模索しています。
JR九州は大きな組織ですが、JRだけでできないことはたくさんあります。これからは“掛け算”の時代。地域や若い世代、スタートアップなどいろんなプレーヤーとともに未来やまちをつくる「共創」ができるよう、私自身も当事者として関わっていくつもりです。
中川:
この場で敢えて言いますが、「まちづくり」とか「スタートアップ」という言葉を使わないこと、でしょうか。どうやってカオスをつくるかにフォーカスして、どうしたら自分たちがワクワクするかをみんなで考えていきたいですね。
宮﨑:
横浜市で実際にやっているのですが、このような交流拠点に企業から若い人材に入ってもらい、月に1回のイベントを開催しています。拠点に集まる地元学生とその社員さんで、一緒にイベント企画から実施までやるという形なら企業側にとってもメリットがあり、コスト面でも無理なく始められるのではないでしょうか。
髙田:
この場は素敵なんだけれど「大人だらけ」だと感じます。学生や子どもたちにももっとたくさん参加してほしいし、女性もまだまだ少ないのが寂しいですね。将来的にMOCの理事に若い女性が入るとか、アドバイザーに子どもがいるといった「柔軟性のある場所」になるよう働きかけていきたいですね。
立石:
そして「まちづくり」とか「スタートアップ」を語らないという…(笑)
髙田:
そう(笑)。何をやっているかわからない、そんなカオスな状況こそが、新しいことが始まる場づくりにつながるのではないか思います。
立石:
ありがとうございました。会場のみなさんもまちづくりについて、最後のネットワーキングの時間を活用してぜひ意見交換をしてみてください。