九州アクセラレーター vol.1〜九州の志、宮崎に集う。挑戦を加速させる、はじまりのピッチ〜
九州の挑戦者が集結。新たな共創が生まれたピッチイベント
先日開催された、九州エリアの起業家・事業者が集まるピッチイベントの様子をご紹介します。今回が第1回目の開催で、「もともとは飲み会がきっかけで始まった」というアットホームな雰囲気の中、福岡・大分・鹿児島・宮崎など九州各地から10組の登壇者が、それぞれの事業への思いを語りました。
イベントが生まれた背景
主催者であるSUNAO製薬代表取締役の廣澤さんは、実は「自分が主催するような人間ではない」と笑いながら話していました。もともとは仲間内の飲み会で「10年後に何かしよう」という何気ない一言が発端となり、気づけば約50人が集まる会になっていたそうです。
その原点には、廣澤さん自身が創業5年目のころ、事業がなんとなく停滞気味だった時期に、当時「宮崎スタートアップ道場」という名前で開催されていたスタートアップのイベントに飛び込みで参加した経験があるといいます。そこで「ピッチ」という言葉すら知らなかった自分が、その場で出会った方々との縁がきっかけとなり、業種を超えたつながりが一気に広がったそうです。それから会社を15年続けてこられたのも、あのときの出会いのおかげだと感じているとのことで、「今日はまさに、自分から人と人をつなげていく側に回りたい」という思いでこの会を企画したと語っていました。
会の進行はシンプルで、1社あたり5分間のピッチ、その後3分間の質疑応答という形式。会場では「コメントバックシート」という仕組みも用意されており、参加者がリアルタイムでコメントや応援メッセージを入力できるようになっていました。終了後は懇親会も予定されており、「ピッチをしない人もぜひ飲みながら交流を」という呼びかけもありました。
以下、登壇順に各社の内容を「きっかけ」「取り組んでいる課題」「サービスの中身」「今後の展開」「質疑応答」の項目でまとめました。



株式会社ベルコード 大西 将也氏(宮崎)
香りで空間価値を変える新技術
きっかけ
フランス製アロマブランドとの取り組みの中で、「いろんな香りを試したいけれど、今のままでは手軽に使えなくて結局購入をためらってしまう」というお客様の声を数多く聞いたことから開発が始まりました。香りを通じて空間そのものの価値を高めることをミッションに掲げています。


取り組んでいる課題
個人にとっては香り体験を導入するハードルが高く、企業にとっても「空間の価値を高めたいが、本格導入までの体験のハードルが高い」という課題がありました。
サービスの中身
電気・水を使わず、10gほどの小さなシートで香りを拡散できる「ヒートシート」を開発しました。超軽量・低コストで、原料は世界中から厳選しており、自社独自の調合によって毎日違う香りを楽しめる仕組みも構築しています。使用後のシートはリサイクル可能な素材でできており、環境にも配慮した設計です。差し込むだけで約50分間香りを楽しめる手軽さが特徴で、初回体験用と、香りが気に入った方向けのリピート用、2種類のプロダクトを用意しています。さらに、ウェブと連動させ、香りと映像を組み合わせて楽しむ仕組みも開発中です。導入企業側の登録・利用は完全無料で提供しています。
今後の展開
ホテルのブランディング支援を無料で開始。ホテル業界での導入事例はまだ少ないとのことで、マッチしそうなホテルがあればぜひ紹介してほしいと呼びかけていました。あわせて、お土産用商品としての販売展開も進めており、「コーヒー一杯感覚」で新しいお土産として各地で展開できる可能性があるとしています。将来的には海外展開も見据えています。
質疑応答
Q. 事業を進める中で一番困っていることは?
A. 大手香水メーカーとの連携や、同業他社とのユーザー獲得競争の難しさに直面している。
株式会社ウィズダムプラス 川崎 悠人氏(宮崎)
世界最小サブミクロンレベル(直径0.2μm)のミストを発生する噴霧装置
きっかけ
川崎さん自身が19歳のとき交通事故に遭い、頭部に大きなけがを負い、意識・記憶に大きな影響を受けました。海外の医学分野で香りが意識回復に使われている事例をヒントに、父親が香りを使ったリハビリを試みたことで、記憶がほとんどない状態から大学を留年せずに卒業できるまで回復したという実体験が、香り関連事業を始める原点になっています。



取り組んでいる課題
一般的な芳香拡散機は粒子が大きい(数百マイクロメートル単位)ため、噴霧してもすぐに床へ落ちてしまい、空間全体に長時間香りを行き渡らせることができないという課題がありました。
サービスの中身
0.2〜0.4マイクロメートルという極めて微細な粒子を発生させる業務用ディフューザーです。一般的な加湿器などが1時間あたり300ミリリットル程度の液体を使用するのに対し、この製品は1時間でわずか0.9ミリリットル程度の消費量で済み、発生する粒子数は毎時215兆個にものぼるとのこと。これは人間の細胞数(約60兆個)の3〜4倍に相当する数字だそうです。発生する粒子のサイズは、ちょうどウイルスや細菌と同じくらいの大きさで、人間が吸い込んでも肺の奥深くには到達しにくいサイズに調整されています。
この特性を活かし、農業分野への応用実験も進めており、水ミストだけで害虫を駆除する実証実験に成功。虫の気門と粒子サイズが近いため、農薬を使わず水だけで害虫を水没させられるとのことです。日南市のビニールハウスでは、さつまいものナンプ病の原因菌に対しても効果を確認したそうです。また、宮崎大学の教授とナノミストに関する共同研究を行っているほか、宮崎工業高等専門学校の教員と連携し、目に見えないミストの挙動を可視化する検証も進めています。田野地区のバラ園で行った実証実験では、枯れかけていたバラが噴霧後に花を咲かせた事例も紹介されました。
今後の展開
農薬使用量の削減につながる技術として、農業分野での実証実験を継続していく方針です。
質疑応答
Q. 開発のきっかけは技術志向だったのか?
A. もともとぶどう栽培の除草作業で草を焼く様子を見た気づきと、自身の交通事故からの回復体験がきっかけだった。
Q. 屋外の畑などでも使えるのか?
A. 使える。水を撒くだけで虫を駆除できる。
株式会社ライトライト 松田 稜平氏(宮崎)
事業承継マッチングプラットフォームrelay(リレイ)」の運営
きっかけ
好きだったお店が、貼り紙一枚で突然「本日をもって閉店」となる場面を目にした経験。宮崎県高原町にあった、66年間地域に根ざして教科書や文庫を販売してきた書店が、最後に「申し訳ない」と謝りながら店を閉めたことが直接のきっかけになったそうです。



取り組んでいる課題
日本では中小企業の3分の1が廃業に至るともいわれる「大廃業時代」が進行中で(2025年に向けて加速しているとされる)、しかもその半数以上が後継者不在による黒字廃業だといいます。事業承継業界には従来「店名を伏せて売上・利益の数字だけで承継するかどうかを判断してもらう」という慣習(いわゆる“ロンネーム”方式)があり、継ぎたい人がその店にどんな思いが込められているのかを知る機会自体が失われていました。
サービスの中身
店名や写真も含めてオープンに情報公開し、後継者を募集できるプラットフォームです。この業界としては珍しい取り組みで、立ち上げ当初は「本当に掲載する事業者がいるのか」と懐疑的な声もあったそうですが、現在では全国で800件ほどの事業者が掲載し、そのうち200件ほどがマッチングに至っています(成約率は約23%)。一般的な事業承継仲介の成約率が8%程度と言われる中、オープンにすることでこの水準を実現しているとのことです。公開から4ヶ月ほどで成約するケースが多いそうです。
今後の展開
地方自治体と連携しながら全国を巡回しており、当月は新潟に2週間、翌月は北海道に1週間滞在するなど、精力的に活動しています。宮崎県内では農業分野に特化した事業承継支援も展開し、これまで県内で5件ほどの成約実績があるとのこと。高原町では4件の承継実績をきっかけに、周辺の商店街エリアで新規創業が10件ほど生まれており、事業承継が地域創生の起爆剤になり得ると考えているそうです。
質疑応答
Q. 事業承継を希望する人は、お金が目的ではないのでは?
A. その通りで、その地域やお店のファンだった、地域のアイデンティティを引き継ぎたいという思いから、覚悟を持って事業を引き継ぐ人が多い。
株式会社BabuuTalk 堀田 一希氏(東京/宮崎)
AI対話技術を活用した高齢者向け見守りプラットフォームの企画・開発・運営。
きっかけ
COOである堀田さんが高齢者福祉・介護に関わる行政業務などに携わる中で、「家族とのつながりをもっと当たり前に感じられるようにしたい」という思いを抱いたことがきっかけです。


取り組んでいる課題
高齢者の孤独・孤立に伴う認知症リスクの増大、介護者の負担増加、そして深刻化する介護人材不足(2040年ごろには約57万人不足するとの予測も紹介されました)が背景にあります。あわせて、行政の相談員が高齢者宅への訪問に片道30分かけて移動し、さらに書類のコピー作業に時間を取られてしまうといった、現場側の負担についても触れられていました。
サービスの中身
AIを活用したタブレット型の見守りツールで、高齢者本人はほとんど操作不要という点が最大の特徴です。家族がLINEで写真や音声を送ると、デジタルフォトフレームのように表示されたり、音声メッセージとして再生されたりします。孫の声を学習させたAIが、服薬や食事のタイミングを声かけでリマインドしてくれる機能もあり、朝7時に朝ご飯、夜に薬を飲むタイミングなどをLINE上で設定するだけで、あとは自動で声かけしてくれる仕組みです。高齢者向けの脳トレゲーム機能や、話しかけるだけで応答するコミュニケーション機能も備えています。サービス開始から5年で、累計800ユーザーほどが利用しているとのことです。プレミアムプランでは、声かけの頻度や通話時間、アルバム機能などをカスタマイズできるそうです。
今後の展開
SNSを中心とした認知拡大に加え、離乳食・介護食などを扱う他社とのコラボレーションも検討しているとのことでした。会場からは、離乳食・幼児食を扱う登壇者から「おばあちゃん向けの設定と組み合わせたコラボができるかもしれない」という提案も飛び出していました。
質疑応答
Q. 高齢者にとって音声の聞き取りづらさなどの問題はないか?
A. 実際の購入者(モニター利用者5名ほど)からは、ロボット的な合成音声より家族の声の方が伝わりやすいという声が多い。特に孫の声は聞き慣れているぶん、より届きやすいと感じている。
Q. モノを届ける際の手間などの課題は?
A. 家族が離れて暮らしている場合、誰かが設置や配送を代行する必要があり、直接ユーザーに届きにくいという流通面の課題がある。福祉用具の販売店を経由することもあるが、それによって直接ユーザーと接点を持ちにくくなる面もある。
Q. AIでは代替できない部分は?
A. 介護に関する知識の提供(LINEで随時発信)や、最終的に人が行うケア、いわゆるソーシャルワークの部分は代替できないと考えている。ただし、そこを担う人材の数自体が少ないため、テクノロジーで補える部分は補っていきたい。
かごねこ 浜崎菜央氏(鹿児島)
猫の顎下のニキビ・汚れをとるクレンジング剤の開発および販売。
きっかけ
動物病院に勤務する登壇者が、猫によく見られる「あご青にきび(フェリンアクネ)」に悩む飼い主が多いことに気づいたことがきっかけです。近年、犬よりも猫の飼育頭数が増えている(全国調査による統計)という背景もあり、猫の健康・美容に関するニーズの高まりを感じているとのことでした。


取り組んでいる課題
あご部分は毛づくろいが届きにくく、皮脂や汚れがたまって黒いブツブツができやすい部位です。悪化すると出血したり毛が抜けたりすることもありますが、猫は水やドライヤーを嫌がるため通常のシャンプーによるケアが難しく、飼い主が無理に爪でこすって悪化させてしまうケースが多く見られました。登壇者らが日頃SNSで発信している保護猫活動(フォロワー約4.3万人、地域だけでなく全国から反響あり)でアンケートを取ったところ、約3分の2の飼い主が「青にきびが気になる」と回答したそうです。
サービスの中身
ガーゼにクローブ(丁子)成分を配合したクリーナーを開発しました。クローブには強い抗菌作用・鎮痛作用があり、昔から歯の消毒などにも使われてきた成分です(いわゆる「歯医者さんの匂い」の正体もクローブとのこと)。水を使わず拭くだけでケアでき、アルコール不使用のため猫が誤って舐めても安全な設計です。実際に使用した猫の写真では、黒ずんでいたあごが白く綺麗になる様子が確認でき、抗菌作用によって1ヶ月以上清潔な状態を保てるとのことです。
今後の展開
登壇者が15年以上続けている保護猫活動や不妊去勢手術のボランティア活動(これまでに5,000頭ほどに施術)と連動させながら、商品化・販売を目指しています。夏休みには子どもたちに保護猫や地域猫について伝える活動も予定しており、その一環としても商品を役立てたいとのことでした。現時点ではまだ未発売で開発段階です。
質疑応答
Q. 販売時期や価格帯は決まっているか?
A. まだ未定。できるだけ早く商品化したいが、動物病院での勤務が中心で商品開発の経験がなく、手探りの状態。
Q. 法規制(雑貨扱いか医薬部外品扱いか)はどうなっているか?
A. 動物用医薬品と雑貨の境界が法律上あいまいな部分があり、どこまで効能をうたえるかも含めて今後整理していく必要がある。
前半の5つのピッチに共通していたのは、課題の発見が「市場調査」だけから始まっていないことです。
自分や家族の体験、顧客から届いた声、地域で消えようとしている会社、離れて暮らす親への心配、目の前の猫の痛み。日常の中で見過ごされがちな小さな違和感を、「仕方がない」で終わらせなかった人たちがいました。



休憩に入る頃、会場ではすでに名刺交換や立ち話が始まっていました。「それなら、うちの技術が使えるかもしれない」「この人を紹介したい」。ピッチの5分間では収まりきらなかった話が、あちらこちらで続いている。
九州アクセラレーターは、完成された事業を披露する展示会ではありません。
まだ粗削りなアイデアに、別の地域、別の業界、別の人生を歩いてきた人の視点が加わり、次の一歩が見えてくる場所です。
後編では、食の制約を越えるスイーツ、歯磨きの常識を変える構想、移植医療の情報格差、障害者の住まい、そして地域資源を未来へつなぐクラフトジンの挑戦をご紹介します。