PROJECT

九州アクセラレーター vol.2〜九州の志、宮崎に集う。挑戦を加速させる、はじまりのピッチ〜

飲み会から企画が生まれた九州アクセラレーター。ノリで始まったものの企画、運営はもちろん真剣そのもの。発表側と聴く側の境界が少しずつ溶け、質問にも「評価する」というより、「一緒に考えてみよう」という姿勢が表れていました。

前編で紹介した5つのピッチは、香り、農業、事業承継、高齢者支援、猫のケアと、分野こそ違っていたものの、どれも身近な困りごとを見過ごさず、事業という継続可能な形に変えようとする挑戦でした

後半の5つのピッチは、さらに私たちの暮らしの中心にあるテーマへと近づいていきます。食べること。健康を守ること。必要な医療情報へたどり着くこと。自分らしく住むこと。そして、地域の営みを次の世代へつなぐこと。

私たちが無意識に「当たり前」だと思っていることを、やさしく問い直すようなピッチが続きました。

株式会社Alvirea 堀之内 元喜氏(鹿児島)

糖尿病患者でも食べられる低糖質かつ腸内環境改善が可能なスイーツの開発および販売。

きっかけ
創業者の父親が糖尿病を患っており、誕生日やクリスマスにケーキを家族と一緒に食べられなかった経験から、娘である創業者が「お父さんと一緒に食べられるスイーツを作りたい」と一念発起して事業を立ち上げました。家族全員でその特別なケーキを囲んだ記憶が忘れられず、その思いを引き継いで会社を設立したとのことです。

取り組んでいる課題
血糖値や糖質を気にする方が、家族や友人と同じお菓子を一緒に楽しめないという悩みに着目しています。日本国内でも一定の割合で糖尿病の方がいるとされ、その方々にも「食べる喜び」を諦めてほしくないという思いがベースにあります。

サービスの中身
血糖値に配慮した成分配合のスイーツを製造・販売しています。代表(創業者の父親)が長年の経験の中で培った、成分の分析・配合ノウハウをもとに、満足度の高い味わいを実現しているとのこと。腸内環境への配慮も取り入れており、大学と連携しながら、スイーツを食べた際の吸収率などを検証する研究(JICAの枠組みを通じた取り組みも含む)も進めています。

今後の展開
まずは店舗を絞り、鹿児島を中心に展開をスタート。あわせてクラウドファンディングでの資金調達を予定しており、関西方面でのクラウドファンディング掲載も計画しています。サブスクリプション型サービスの導入も検討しているとのことでした。

質疑応答
Q. 顧客へのアプローチ方法は?
A. SNSでの発信を中心に、地域の補助金なども活用しながら継続していく方針。

株式会社Alteonus 山内 倫裕氏(鹿児島)

食べる口腔ケア商品「歯磨きスイーツ」

きっかけ
開発者はもともと米国で心臓移植手術に関わっていた歯科医。手術直前に虫歯が見つかり、オペが延期・キャンセルになる子どもたちを何人も見てきた経験がきっかけです。手術を延期する子どもは全体の約12%にのぼり、次のドナーが見つかるまでさらに半年〜1年待つことになるケースも珍しくなかったそうです。また、入院中の子どもが夜泣きをする際、寝かしつけのためにお菓子を与えることが虫歯につながってしまう悪循環も、開発の大きな動機になったといいます。

取り組んでいる課題
小さな子ども、障がいのある方、高齢者など、いわゆる「歯みがき弱者」にとって、従来の歯ブラシによるケアは大きな負担です。歯ブラシの毛先は太さが約200マイクロメートルある一方、虫歯菌が作るプラークは1マイクロメートルに満たないサイズで、単純に歯ブラシでは十分に除去しきれていないという技術的な指摘もありました。

サービスの中身
プラークの形成そのものを抑える特許成分「アルテミックス」を配合した、食べる歯みがき(生キャラメルなど)です。虫歯菌・歯周病菌が栄養にできない種類の甘味料を使用しており、味や食感は一般的なキャラメルとほとんど変わらないとのこと。乳歯を使った実験では、成分を含んだ溶液に浸すことでプラークが目に見えて減少する様子が確認され、実際に高齢者施設で2週間の実証実験を行ったところ、誤嚥性肺炎のリスクの低さや、服薬に比べて圧倒的に高い継続率(食べ忘れ率わずか約2.8%、一般的な服薬アドヒアランスが20〜50%程度飲み忘れがあるとされる中で非常に高い数字)が確認されたとのことです。

今後の展開
チョコレートやアイスクリーム、マカロン、ショートブレッドなど他の食品への展開も検証中で、まずは生キャラメルから始めて徐々に商品ラインナップを広げていく方針です。鹿児島大学発の認定ベンチャーとして各種アワードやアクセラレーションプログラムに参加し、マレーシアや米国での発表経験もあるほか、福岡証券取引所のスタートアップ支援プログラムにも選ばれています。一方で、現状メンバーはまだ3人と少なく、資金調達や仲間集めを強化している段階とのことでした。

質疑応答
Q. 唾液など水分で溶けるのか?
A. 溶ける
Q. (自身も心臓移植を経験した参加者から)非常に共感した、地元の関連施設と連携できないか
A. ぜひ連携したい。

MYSHOKU 本田 颯人氏(大分)

アレっ子が作るアレっ子のためのサービス。飲食店のアレルギー対応情報を見える化。

きっかけ 課題
本田さんは子どもの頃から重い食物アレルギーを抱え、何度も救急搬送された経験があり、それが起業のきっかけになったそうです。日本には食物アレルギーに悩む方が多く、外食のたびに「このお店は対応してくれるのか」という不安がつきまといます。お店ごとに対応がバラバラで統一基準もなく、既存のアレルギー対応サービスも使い勝手に課題が残っているとのことでした。

サービスの中身
開発中なのは、飲食店と利用者をつなぐマッチングサービスです。

  1. 飲食店側は「対応できないもの」を登録するだけ(無料)
  2. 利用者は自分のアレルギー情報を登録
  3. 自分に合った安心できるお店をAIで検索できる

外食だけでなく、アレルギーに配慮した温泉宿とのマッチングなど、旅行分野への展開も進めています。

今後の展開
チームにはエンジニアや海外大学出身のメンバーもおり、まずオーストラリア、次いで衛生環境の改善とともにアレルギーへの関心が高まる東南アジアへの展開を構想しています。「食事のことで誰も不安にならない世界を」というビジョンが印象的でした。

クラウドファンディングは目標1,500万円に対しすでに1,000万円以上を達成、残りわずか(あと1日ほど)というタイミングでの発表でした。

質疑応答
Q.なぜアレルギー対応の「基準」がなかなか定まらないのか?
A.アレルギーは症状の重さが一人ひとり大きく異なるため、「これなら大丈夫」と一律の基準を作ること自体が難しい。誤解やリスクを恐れて、国としても明確な基準を設けづらいという背景がある。
Q.海外の「ハラール認証」と似ているのでは?
A.ハラール認証も世界に100種類以上あり基準がバラバラ。日本の認証が海外で信頼されにくいケースもあり、「食の基準づくり」の難しさは世界共通。
Q.アレルギーのある家族が海外旅行するときは?
A.私は600人以上、100カ国以上の国際的な学生が集まる大学とのつながりを持っており、そうしたネットワークを活かして、海外対応も含めたサービス展開を目指している。

「アレルギーがあっても安心して外食や旅行を楽しめる社会」を目指し、店ごとの対応のばらつきをテクノロジーで橋渡ししようとする取り組みです。今後の展開に注目したいと思います。

株式会社クリエイド 近藤 洋俊氏(大分)

障がい者や車いすユーザーが安心して暮らせる賃貸住宅を仲介する、「心のバリアフリー」を重視した不動産会社。

きっかけ
車椅子を利用する知人から、賃貸物件探しのハードルの高さについて聞いたことがきっかけです。実際に自立支援センターを通じて当事者に取材したところ、ある20代の女性が「一人暮らししてもいい」という許可(大家の理解)を得るまでに約1年かかり、その間は施設と行き先を車で往復する生活を続けていたという事例を知り、強い問題意識を持ったそうです。

取り組んでいる課題
全国の障がい者数は約480万人にのぼり、これは宮崎市の人口の約12.3倍、宮崎県の人口の約4.7倍に相当する規模だといいます。しかし全国に約1,925万戸あるとされる民間賃貸物件のうち、身体障がい者が入居可能とされる物件は調査によればごくわずか(0.0005%程度)しかありません。不動産会社・医療福祉関係者・自治体・当事者それぞれが悪いわけではなく、単純に「情報がつながっていない」ことが問題の根本にあるという整理がなされていました。

サービスの中身
当事者・不動産会社・医療福祉関係者・自治体が情報を共有できるプラットフォームを構築しています。物件のバリアフリー状況などを事前に確認できるようにすることで、当事者は入居できる可能性を事前に把握でき、不動産会社は福祉との接点を持て、医療福祉関係者は必要な情報を的確に提供でき、自治体も現状を把握しやすくなるという、四者にとってメリットのある仕組みを目指しています。

今後の展開
今年1月に別府で立ち上げ、地元金融機関の支援を受けてホームページのリニューアルを行うなど、地元の不動産会社や大家との連携拡大を進めています。

質疑応答
Q. 入居後の引っ越し頻度など、実態は把握できているか?
A. 正式なデータはまだ公表されていないが、熊本市から環境の合う地域(日田市など)へ転居し、3年ほど住み続けている事例もある。
Q. 大家側へのアドバイスはどこまで行うのか?
A. バリアフリーの明確な定義があるわけではなく、どこまで対応すべきか判断が難しい。例えば車椅子利用者向けに廊下に手すりをつけると、逆に廊下の幅が狭くなり不便になることもある。アンケートでは「バリアフリーに何を求めるか」という問いに対し、意外にも“広さ”を求める声が多かった。過剰な改修よりも、必要最小限の対応(引き戸を外開きにするなど)を、当事者一人ひとりに合わせて考えることが重要だと考えている。

合同会社ボトルドローカル 高橋 米彦氏(福岡)

地域資源を活用したクラフトジンの企画・販売

きっかけ
金融機関(鹿児島銀行に約6年勤務)やビジネススクールでの学びを経て、地域資源を活かした事業に携わりたいという思いから、まず鹿児島でスタートアップ支援のコンテストを仲間と立ち上げ、その後クラフトジンの蒸留所事業へとたどり着きました。製造免許の取得や資金調達を経て、今年4月にようやく蒸留所が稼働を始めたばかりだといいます。

取り組んでいる課題
地域の一次産品や特産品(竹や柑橘など)の魅力を、単なる特産品としてではなく、生産者や職人の思いも含めたストーリーとして伝える手段が限られていました。

サービスの中身
地元の竹や柑橘などの素材を使ったクラフトジンの製造・ブランディングを行っています。ジンは「ジュニパーベリーを使うこと」「アルコール度数37%以上にすること」以外は製法がほぼ自由なお酒で、その自由度の高さを活かし、地域ごとの素材で個性ある一本を作ることができます。国内のクラフトジン蒸留所は47都道府県すべてに存在し、その数はおよそ400ブランドにのぼるとのこと。市場規模はこの5年ほどで大きく伸びており(登壇者の感覚では数千倍規模)、世界的に見ても2桁成長を続けている分野だそうです。単なる委託製造(OEM)にとどまらず、生産者や職人の背景・思いを商品の裏側にしっかり込めることを大切にしており、竹の産地(竹田市など)や、地域の椿油などとのコラボレーションも進めています。

今後の展開
各地域の生産者とのコラボレーション商品の開発、ワークショップの実施(登壇当日も会場でサンプルを配布)、クラウドファンディングの実施を予定しています。人口十数人という離島など、過疎化が進む地域での取り組みも構想しているとのことでした。

質疑応答
Q. OEM製造と自社ブランドの割合はどう考えているか?
A. 半々くらいが一つの目安。ただし地域資源への思い入れがあれば、必ずしも自社ブランドにこだわる必要はないと考えている。

イベントの締めくくり

全10組のピッチが終わったあとは、コメントバックシートへの記入タイムを挟み、全員での集合写真撮影が行われました。主催者からは「今日はうまくまとまらない部分もあったかもしれないが、登壇者それぞれの熱い思いが伝わってきて、コラボレーションできそうな組み合わせもたくさん見つかった、いい一日になった」という総括のコメントがありました。今回は福岡・大分・鹿児島・宮崎など複数の県から参加者が集まったこともあり、「九州全体を盛り上げていきたい」という主催側の思いも共有されていました。

会の後半では、SUNAO製薬が開発、販売している地元の茶葉や薬草(桑の葉や宮崎の薬草など8種類ほど)をブレンドした肝酵素γ® Extra Rich Pasteが振る舞われる場面もあり、「ポリフェノールが豊富で、明日の朝はスッキリ目覚められるはず」といった和やかなやり取りも交わされ、MOCでは恒例の i am kitchenの永住さんのケータリングへとなだれ込んでいきました。

おわりに

業種も規模、フェーズもそれぞれ異なる10組のピッチでしたが、共通していたのは「身近な誰かの困りごと」を出発点にしている点でした。香り、介護、ペット、事業承継、障がい者住宅、お酒、食物アレルギー——それぞれ異なるテーマながら、登壇者同士が「コラボできそう」と盛り上がる場面も多く見られ、九州各地のつながりが生まれる一日になったようです。

イベント名 九州アクセラレーター vol.2〜九州の志、宮崎に集う。挑戦を加速させる、はじまりのピッチ〜
開催日程 2026/06/20(土)開催
活動レポート一覧