MOCグランドオープンイベント_第1部 パネルディスカッション「事業承継 × スタートアップ」
「事業承継 × スタートアップ」
「事業承継 × スタートアップ」をテーマとしたパネルディスカッション。司会進行を秦裕貴さん(AGRIST株式会社 取締役・最高技術責任者)が担い、パネリストとして津野省吾さん(ベータ・ベンチャーキャピタル株式会社 ファンドマネージャー)、下岡純一郎さん(株式会社クアンド 代表取締役CEO)、大田原尊之さん(宮崎カカオ 代表)が登壇しました。
レガシー産業の力を受け継ぎ成長するスタートアップ
秦裕貴さん(以下、秦):
私自身、農業のスタートアップ企業をしていて、既存企業との連携が欠かせないと感じています。下岡さんはスタートアップ企業を経営しながら、M&Aという形で事業承継もされています。実際のところ事業承継の現場ってどんな感じなんですか。
下岡純一郎さん(以下、下岡):
僕の経営するクアンドという会社は、テクノロジーで建設業をはじめとする地域産業の発展のお手伝いをしています。たとえば、弊社の「SynQ Remote(シンクリモート)」というアプリは、建設・製造の現場でのコミュニケーションやナレッジの共有と業務効率化を目的としています。
そうしたツールを事業承継した会社でも使うのですが、ただ「使ってね」と渡すだけで浸透させるのは難しいので、関係づくりを意識しています。平均年齢がクアンドは35歳くらいですが、事業承継した会社は55歳なんです。年齢に開きがありますが、業務によっては90%以上自動化が進んでいるので上手くやれているのではと思います。
秦:
ベンチャーキャピタルにお勤めの津野さんにお聞きしたいのですが、レガシー産業と呼ばれる老舗企業を子会社化して業務改善をする事例って他にもあるのですか?
津野省吾さん(以下、津野):
ありますね。九州でも焼酎系のスタートアップが数社ありますが、それらは自社で酒類製造免許を取得できないので既存メーカーを合併・子会社化することで自社商品をつくろうとしています。また、酒造メーカー側からは経営者や杜氏が高齢化で事業承継を考えている話をよく耳にします。今後もスタートアップが老舗企業をM&Aする事例は増えていくでしょうね。
大田原尊之さん(以下、大田原):
高齢化が経営に与える影響は大きいですよね。私がカカオを栽培しているハウスは、以前の所有者から買い取ったものです。その方は、一緒に農業を行ってきた親族の高齢化に伴い、規模縮小のためハウスを手放したという背景があります。
津野:
下岡さんに聞きたいことがあります。スタートアップとレガシー、あるいはベンチャーと中小企業は全くカルチャーが異なりますよね。カルチャーフィットはどう工夫されたのですか。
下岡:
クアンドの創業時からレガシーな企業の受託開発をしていて、現場に入って一緒に作業することが多かったんですね。会社のカラーとしても現場が大事だというのは強かったので、年齢差や風土の違いにも適応できたのかもしれません。
秦:
クアンドさんはSaaS企業としてただ成長したいわけではなく、現場の建設業をなんとかしたいというビジョンがあります。それがスタートアップ側もレガシー側も、同じ方向を向くための重要な点だと思いますね。
スタートアップが出資を受ける際の注意点
大田原:
津野さんに資金調達でご相談があります。農業は初期投資にお金がたくさんかかります。そこで出資を受けて調達するという方法もありますが、新参者には怖さもあります。出資を受けるためには何が一番重要なのでしょうか。
津野:
まず、ベンチャーキャピタルから資金調達をしたいのであれば事業計画が練られているかは外せない要素です。また、最初のシード投資のときに判断する基準として「人」が挙げられます。大田原さんの真面目そうな感じ、僕めっちゃ好きです。そういう部分も判断材料になります。
下岡:
大田原さんのような事業だと、僕はベンチャーキャピタルからお金はあまり受けない方がいいと思っています。成果を急かされる「時限爆弾付き試験」みたいな感じになるので。逆に僕らのようなソフトウェア開発は他社よりも早くつくることが求められるので相性はいいかもしれない。
カカオ栽培の場合、ゆっくり検証を重ねつつ、ある程度キャッシュが回る段階になって加速が必要になった段階で、ベンチャーキャピタルから調達するという形も一つのやり方だと思います。
産業再編成の時代。MOCは創発の場となれるか
下岡:
僕は現代は「産業再編成の時代」だと捉えています。建設業や農業など、「こういうものだよね」という既存の業界のイメージが、産業構造の変化とともに崩れていく。この先の20年で既存プレイヤー、ベンチャーの意味や価値も変わり、新しいサービスが地方からどんどん生まれてくると思っています。
秦:
スタートアップとか既存企業に関係なく、柔軟な考え方を持たないとその変革に付いていけない気がしますが。
津野:
テクノロジーもトレンドも急速に変わっていくので、どれだけ情報感度を高く持てるかは事業成長に関わるでしょうね。そこで思うのは、宮崎の中に居続けると井の中の蛙になってしまう。意識的に外に出る機会をつくった方がいい。
下岡:
大田原さんは県外へ出る機会はありますか?
大田原:
生き物を扱っているので、なかなか外に出られない事情があります。ですが、農閑期があるので、そのタイミングで商談やリサーチを考えています。昨年ですとカカオの産地化を進めている台湾に視察に行ったりと積極的に情報収集をするように務めています。
秦:
温暖な気候でのんびりしちゃうところはあるけれど、大田原さんのようなチャレンジマインドを持って、おもしろい事業をしている人が宮崎にもたくさんいます。外と接点を持つとともに、志や想いを持った人たちが集う場所も必要だなと感じています。
下岡:
MOCのような異業種が集まる場所は貴重ですよ。
大田原:
そうですね、普段農業だけやってると、同じ界隈の人としかつながりません。MOCを訪ねれば、AGRISTのように農業に先端技術を取り入れている企業さんと出会えますし、そこから偶然良いビジネスが生まれると期待しています。
下岡:
僕自身、これまで受けた支援で一番ありがたかったのはやっぱりお金なんですね。だから技術力やアイデアを持つスタートアップと資金を提供してくれる方、あるいは創発の可能性がある企業さんとをつなぐ場があると助かるなと思っています。
津野:
MOCさんがよければ週に何日かここにいて相談を受けますよ(笑)。その話に関係しますが、宮崎の事業会社がスタートアップに投資する世界を見てみたいですね。
秦:
津野さんに期待しています(笑)。スタートアップだけではなく、さまざまな方が連携していける場としてMOCが活用されることを願っています。