PROJECT

サスティナブル経営の基礎と最新動向

開催概要

2025年5月28日、主催株式会社シンク・オブ・アザーズ、MOC(宮崎オープンシティ推進協議会)共催によるセミナー「サステナブル経営の基礎と最新動向」が、宮崎市のMOC施設にて開催されました。

本セミナーは、「なんとなく気になっている」段階の経営者や担当者が、サステナブル経営の基本的な考え方や、実践の第一歩を学ぶことを目的に企画されたものです。「補助金や制度に振り回される」のではなく、「自らの意思で持続可能な経営を構築する」ことをテーマに据え、ESGや脱炭素、GXといった社会的潮流を経営戦略にどう取り入れるかを探る内容となりました。

登壇者は全国的にサスティナビリティ経営やESG投資について見識の深い難波先生、地元で実際にサステナビリティ経営を実践するセキュリティロード齋藤社長、自身の家業や事業承継とも絡めたお話をされた山元先生など、採用強化や事業拡大、社員の誇りづくりといった具体的な成果とともに、「サステナ経営=地域とともに成長する経営」であることが示されました。

参加者からは「制度に依存しない取り組みの重要性を再認識した」「自社でできることが見えてきた」といった声が寄せられ、実践に向けた学びの場として好評でした。MOCでは今後も、地域企業が未来志向の経営を考える機会を継続的に提供してまいります。

冒頭、講師の難波先生が令和7年度「消費者支援功労者表彰」内閣府特命担当大臣表彰を受賞され参加者全員でお祝いを

難波先生基調講演:サスティナブル経営の基礎と最新動向

「知らなかった」から「行動したい」へ──サステナブル経営の本質を掘り下げる時間

「知らなかったことに気づいた瞬間から、私たちは変われる。」

講師を務めたのは、長年にわたり環境・人権・多様性などの分野で現場を歩き、企業・行政・学校と多様なステークホルダーに伴走してきた実務家である株式会社シンク・オブ・アザーズ 代表取締役 難波裕扶子先生。今回は、企業におけるサステナブル経営の基礎と本質を、体験とデータを交えて語る場となりました。

※株式会社シンク・オブ・アザーズ

「なぜ学ぶのか」を問い直す

冒頭、難波先生が投げかけたのは「学ぶことは大切だけれど、なぜそうなっているのかを理解していないと行動に移せない」という問いでした。ただ知識を蓄えるだけでは変化は起きない。自分ごととして咀嚼し、試してみる「トライ&エラー」の姿勢が重要とのこと。

特に、サステナブル経営は経営者の意思がすべてであり理念が浸透しない組織では、いくら取り組みを始めても続かない。だからこそリアルな場で共に考え、志を共にする仲間と出会う場づくりが大切だと語られました。

SDGsは特別なものではない

SDGs(持続可能な開発目標)は特別なものではない。難波先生が伝えたのは、むしろ日本企業は昔から「三方よし」などの理念に基づき、地域・社会と共に歩んできた歴史があるということ。その積み重ねを、今あらためてSDGsの文脈で可視化・整理することが求められている。

「目標を掲げることはスタート地点に過ぎない。現場にある“既にやっていることを、どうつなげ、意味づけていくかが大切です」と語られました。

サステナビリティは“見えない未来”への備え

「自社の経済活動が、未来の資源や社会にどんな影響を与えているかを想像できますか?」

気候変動、水資源、生物多様性、そして人権。今、地球は“レッドゾーン”に突入しつつある。難波先生は、1.5度目標を超えるリスクや、日本が毎年5月には「地球資源を使い切っている」現実をグラフで示し、「未来から借りて生きている私たち」に問いかけました。

「自分で自分の首をしめていることに、そろそろ気づかなければなりません。」

「好き」や「得意」から始める社会貢献

セミナー後半では、サステナビリティと自分自身の幸せ・生きがいとの接点が語られました。「社会課題の解決」ではなく、「自分の好きや得意を活かして社会に役立つ」ことが、持続可能な取り組みにつながるといいます。

難波先生自身も、かつては商品開発に関わる中で消費者の声と向き合い続けた経験があり現在は小学生や高校生に向けた講演活動を通じて、「自分で選べる未来」の可能性を伝えている。「知らなければ選べない。だから“知る”ことは自由を拡張する第一歩」と強調されました。

経営者に問われる「翻訳力」と「腹落ち」

環境問題や人権といったテーマは、経営層にとって“遠い話”と感じられることもある。しかし難波先生は、「それらを自社の事業や現場の言葉に翻訳する力が、これからの経営者には求められている」と語られました。

また、単なるCSRやイメージ戦略で終わらせず、「本業と接続した取り組み」に落とし込むことが必要だと訴え人権配慮、ダイバーシティ、サーキュラーエコノミーなど、抽象的な言葉を自社の判断軸として機能させるためには、組織全体に「腹落ち」するコミュニケーションが求められていると力説されました。

最後に──未来を逆算で描く

「自分の子どもがこの会社に入りたいと思えるだろうか?」

未来から逆算して今を見つめ直す姿勢が、まさにサステナビリティの起点であり数字で成果を求めがちな社会にあって、感情や志、そして“好き”という衝動から始まる変化こそが、持続的な価値を生むとのこと。

ある参加者が「知らなかったことに気づいた. 今日、自分の選択肢が少なかっただけかもしれないと初めて思った。知ることで、未来が広がるんですね。」とのコメントされました。今回のセミナーは、単に「サステナブルとは何か」を学ぶ場ではなかく参加者それぞれが、自分自身と会社の未来を再定義する時間となりました。

セキュリティーロード斉藤社長事例発表

「人の成長」を中心に据えたサステナブル経営の実践──地域とともに歩む企業の挑戦

「私たちの事業の根幹には“人の成長”があります」。そう語るのは、宮崎市に本社を構える警備会社、株式会社セキュリティロードの2代目である代表取締役社長兼グループCEO 齊藤 慎介氏。父が創業した企業を引き継ぎ、現在では宮崎・熊本・鹿児島・大分に11拠点を展開し、グループ全体で従業員約600名を抱える規模へと成長を遂げました。

株式会社セキュリティロード

転機となったのは、ある就活生からの一言だった。「御社はSDGsに取り組んでいますか?」。この問いに即答できなかった悔しさから、同社はSDGsへの取り組みを本格的にスタート。最初は手探りの状態だったが、社内にSDGs推進委員会を立ち上げ、社外の専門家とも連携しながらESG経営の枠組みを整えて行かれました。

特に重視したのが「社内の理解と共感」だした。CSR活動としての“ゴミ拾い”にとどまらず、持続可能な価値創出のために何ができるかを、委員会メンバーが主体的に議論し、具体的な目標とアクションプランを定めていったとのこと。SDGsの17のゴールの中から自社の活動に関連する項目を洗い出し、それぞれに「誰が・いつまでに・何をやるか」を明文化。これにより社員一人ひとりが自分事としてSDGsに関われる仕組みが生まれました。

同社のユニークな点は、SDGsの実践が新たな事業創出にもつながっていることです。例えば、障がい者の就労支援や女性の活躍推進を組み込んだ「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」事業では、小さな子どもを育てる母親や、パソコン作業が得意な利用者が多数活躍されています。ここでは、データ入力や軽作業などを通じて、障がいのある方が企業就労前にスキルを磨く場となっており、まさに「多様性を力に変える現場」となっています。

他にも、ベトナムのコーヒー農園とのパートナーシップにより、SDGsの国際的な連携にも取り組む。社員が日々飲むコーヒーを通して、遠く離れた国の暮らしを支援し、フェアトレードやインフラ整備にも貢献。こうした小さな積み重ねが、従業員の意識変革にもつながっています。

また、同社では外国人社員の採用も積極的に進めており、情報システムエンジニアなど、多様なバックグラウンドを持つ人材が力を発揮しています。技術実習制度を活用し、最長7年の中長期的な育成体制を整備。現在3年目の社員は、新規事業の中核メンバーとしても活躍しています。

サステナブル経営は、ただの理念にとどまらない。同社では「1on1制度」や「ペーパーレス化」「共用備品の見直し」など、日常業務にも持続可能性の視点を取り入れ、こうした地道な改善活動が社内文化として定着しつつあることも、強みのひとつです。

「売上や人数を増やすことが目的ではなく、“人が尊重され、成長できる組織”であることが、私たちの本質です」と齊藤氏は語る。単なる経営指標を超えた価値観が、地域や従業員との信頼関係を築き、事業の持続性を支えています。

経営とは、“何をやるか”で決まる。サステナブル経営とは、“社会のために何をなすか”を問い続ける営みである。齊藤氏の実践は、それを地に足のついた形で証明しています。

今後、同社は「万人が永く安定的に働ける企業」をビジョンに掲げる。その根底にあるのは、社会に必要とされる存在であり続けること。そのために、人を育て、地域に根ざし、未来を見据えた経営を続けていくと宣言されました。


株式会社RISE 山元先生事例発表

「構想なき経営に未来なし」──山元理氏が語る、サステナブル経営の本質と“八方良し”の思想

山元経営診断事務所代表であり、株式会社RISEの代表取締役でもある山元理氏。百貨店経営に携わっていた実家が破綻したという原体験をもとに、「経営の第1ボタンをかけ違えると、いくら戦術を重ねても取り戻せない」と、戦略段階での構想の重要性を熱く語られました。

株式会社RISE

これまで数多くの企業支援を行ってきた山元氏は、「どうやるか」よりも「何をやるか」という“上流の意思決定”こそが、企業の命運を分けると強調。そこにサステナブルな視点を組み込むことが、これからの経営に不可欠だと訴えました。

印象的だったのは、かつて人気を博したテレビ番組「マネーの虎」の出演者のその後を例に挙げた分析。利益を最優先に掲げた経営者たちの多くは倒産や廃業に追い込まれた一方、「夢や目的のためにお金が必要だ」と語った経営者たちは、今も事業を継続しているという。お金は経営において欠かせないものだが、それを“目的”とするか“手段”とするかで、判断や方向性は大きく変わる。その示唆は、サステナブル経営における価値観の転換そのものです。

また、日本に老舗企業が多い理由として、山元氏は「信頼」や「地域貢献」といった“見えない価値”を大切にする文化があると分析。江戸時代から続く「三方良し(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の思想を現代に拡張した「八方良し(社員・家族、取引先、債権者、株主、顧客、地域、国すべてに良い経営)」という考え方こそ、サステナブル経営や公益資本主義に通じる日本企業の強みだと説きました。

地球規模の課題として、気候変動にも言及。日本のCO₂排出量は世界全体から見れば小さいが、国内の消費活動が他国、特に中国の排出量に与える影響は大きい。日本が今後、国際社会のルールメイカーとなるためには、率先した環境対応が求められると語りました。趣味のフライフィッシングを通じて自然環境の変化を肌で感じているという山元氏の言葉には、強いリアリティと説得力があった。

人的資本経営についても具体的な指摘があった。「人材をコストではなく投資として見るべきだ」としながらも、中小企業にとってまず大切なのは「辞めない環境」をつくること。その上で、社員の学びや成長を支えることが、結果的に企業の持続可能性を高めると提言されました。

最後に、山元氏は中小企業がサステナブル経営を実践する上でのポイントを4つに整理した。

  1. 構想段階で“何をやるか”を定めること
  2. 成長期のうちに手を打つこと
  3. 「八方良し」の精神を経営に宿すこと
  4. 環境変化を感知する“危機感”を持つこと

この“危機感”を養うために、自然と日常的に触れ合う「野遊び」やアウトドア体験が有効かもしれないという提案も印象的でした。

サステナブル経営を単なるトレンドではなく、“本質的な構想”として企業に組み込むこと──それこそが今、中小企業に求められている。山元氏の講演は、参加者一人ひとりに「自社の経営理念とは何か」を問い直す契機となりました。


パネルディスカッション

「好き」が企業を変える。サステナブル経営が生み出す未来の可能性

パネルディスカッションでは、企業経営者や参加者が本音で語る熱い対話が繰り広げられました。単なる理念ではなく、「自分ごと」として捉えることで企業文化が変わり、社員の行動が変わり、社会との関係性すらも変えていく。その様子を通じて見えてきたのは、「サステナビリティ=未来をつくる力」だという確かな実感でした。

情報過多の時代に、何を信じるか

「一次情報をどう受け取り、どう咀嚼するか」。耳に入る情報は多くても、自分で咀嚼しなければ意味がない。だからこそ、実体験や現場での出会いが重要だという視点が共有されました。

新卒採用が会社を変えた

セキュリティロード斉藤社長から紹介された事例では、新卒採用を機に「サステナビリティ」を企業文化として定着させていった過程が紹介されました。若い世代はSDGsや社会課題に高い関心を持っており、企業の「本気かどうか」を鋭く見抜く力を持つ。新卒との対話を通して、会社の在り方を問い直すことができたといいます。

特筆すべきは取り組みのスピード感で「聞いたらすぐやる」というカルチャーが社内に根づいており、それが結果としてサステナビリティ経営の推進力となりました。

現場で感じた「多様性」のリアル

印象的だったのは、同じくセキュリティロードの子会社レボニティホールディングス株式会社で管理本部/人事・広報採用を担当されている那須さんが育休から復帰した際のエピソード。職場には外国人スタッフが増え、最初は戸惑いもあったという。しかし実際に働いてみると、彼らの真面目さ、視点の違いから得られる気づきが多く、「外国人採用が会社にとって大きなプラスになっている」と実感されたとのこと。多様性の本質は、“一緒に働いてみること”にあるのかもしれません。

自分たちの「好き」が、実はサステナだった

セキュリティロード斉藤社長と那須さんは企業内での取り組みを「伏線のようだった」と振り返りました。はじめはSDGsを意識せず行っていたことが、振り返るとすべて繋がっていた。「これはサステナの文脈だったのか」と後から気づくことで、取り組みに対する納得感と誇りが生まれたといいます。

このように、サステナビリティは第一線で取り組む社員さんが腹落ちすること行動変容に繋がっていくことが大事であるという共通認識が醸成されていました。

「やらされ感」ではなく、自ら動く“共創の文化”へ——CSR・CSVを超える企業変革のリアル

「社会の役に立ちたい」—そんな想いから始まった企業の取り組みが、いま“やらされ感”を超えて、社員の自発性と共鳴し始めています。

SDGsの掲げる目標も、新卒採用の現場では企業の“本気度”として鋭く問われる。「若い世代は、行動の裏にある想いを見抜いてくる」。そんな声からは、CSRを超えた“CSV=共通価値の創造”の息吹が感じられる。

CSRは外部から押し付けられている感覚がありなかなか組織内で浸透しづらい側面がありました。一方でCSVは企業の社会適応力、と解釈され時代の変遷を経ても特にこのVUCAと呼ばれ始めて久しい昨今、企業がより柔軟に組織形態を変え、今日的価値を提供し続けることこそがこれからのサスティナブル経営の根幹になると難波先生が強く訴えられました。

地方だからできること、地方だからこそ問われること

宮崎のような地方都市では、サステナビリティや人権の話題が日常的に語られることはあまりありません。しかし登壇者の1人である宮崎オープンシティ推進協議会の杉田は、都市部のセミナーに参加したことで「自分が知らなかったことの多さ」に衝撃を受けたといいます。こうしたギャップを埋めていくには、都心と地方の“翻訳者”のような役割が必要だと語りました。難しい概念を噛み砕いて、自分たちの文脈で理解できる言葉にすることの重要性を深く感じたとのこと。

小さな企業でも「変わる」ことはできる

参加者からは、「取引先からサステナブル調達アンケートを受け、課題に気づいた」との声もあがりました。小さな建設会社ではあるが、全社員参加型のプロジェクトを立ち上げ、少しずつ取り組みを進めている。建設業という現場中心の業種でも、「やればできる」という空気が生まれつつあるとの共有をいただきました。

“好き”から始まる社会貢献

会場の雰囲気を包み込んでいたのは、「好きなことから始めよう」という前向きな空気だった。猫好きが集まるように、同じ価値観や志を持つ人が自然と集まってくる。報酬や義務ではなく、“生きがい”や“楽しさ”を起点に動き出した企業が、結果として社会に大きく貢献している姿が印象的でした。

「楽しいから続けられるし、続けているうちに成果が出る。それがまた楽しい」。サステナビリティは義務ではなく、楽しみながら実践する企業文化の一部となってました。

最後に

「サステナビリティ経営は、考え方をインストールすること」。SDGsやESGといった概念は、単なる施策ではなく「未来志向の考え方」だとすれば、それをいかに組織に根づかせるかが問われています。

宮崎のような地方都市にこそ、“好き”や“自分ごと”から始まるサステナブルな取り組みが芽吹く可能性がある。今回の対話は、その確かな兆しを感じさせる時間でした。


(ニュース①)

難波先生 令和7年度「消費者支援功労者表彰」内閣府特命担当大臣表彰を受賞


(ニュース②)

難波先生はサスティナビリティ経営に興味を持たれた方向けの連続講座を開講されます。こちらもぜひ覗いてみてください

TOAサスティナ経営リーダーアカデミー


(ニュース③)

難波先生 「知らないことのチカラ」出版されました


(ニュース④)

山元先生 「成長する企業 衰退する企業 ローカルベンチャーに学ぶ経営の基本」出版されました

活動レポート一覧